はじめに
危険物工場やプラント工場を建設するにあたり、近隣に対する臭気問題は重要になります。
今回は、有機溶剤による臭気問題の対策で使用される燃焼式脱臭装置の熱源に使用され、加熱のための熱源に使用される灯油を貯蔵するためのタンクとなります。
一般的な工場には、蒸気ボイラーなどの熱源に灯油は必要となり、ある程度の規模になりますとタンクの設置は重要となってきます。
また、灯油は[第四類危険物 第二石油類 指定数量1000L]に該当し、タンク及び配管、静電気除去装置などは火災や爆発防止のために構造や性能が規定されています。
所轄の消防本部予防課様との協議をもとに、危険物を取り扱う工場での屋外タンク貯蔵所(20号タンク)周りの設計に反映させました。
以下の通り設計・施工事例について御紹介させていただきます。
【目次】
1. 20号タンク
消防法「危険物の規制に関する政令」の第9条第1項第20号での危険物を取り扱うため火災を予防するための位置、構造、設備、性能等が規定されているタンクのことをいいます。
※屋外タンク・屋内タンクのうち、そのタンクの容量が指定数量の5分の1未満のものは除かれる。
2. 今回の事例
設置したタンク容量:1,800L
防油提の必要容量:タンクの容量の110%= 1,980L(1.98㎡)入る容量が必要。
3. 保安距離
屋外に20号タンクを設置するにあたり下記の通り保安距離をとる必要があります。
建築物種類 | 他建物との一定距離 |
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住居 等 | 水平距離10m |
学校、病院、劇場等の大人数を受け入れる施設 | 水平距離30m |
重要文化財、重要有形民俗文化財、史跡 等 | 水平距離50m |
高圧ガス等の災害を発生させるおそれのある物を貯蔵または取り扱う施設 | 水平距離20m |
使用電圧が7,000V超35,000V以下の特別高圧架空電線 | 水平距離3m |
使用電圧が35,000V超の特別高圧架空電線 | 水平距離5m |
4. 保有空地
今回は指定数量500倍以下のものを貯留するため屋外施設から3.1mの保有空地を確保しました。(保有空地はタンク側面から周囲の既存施設まで)
指定数量の倍数 | 空地に必要な距離 |
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500以下 | 3m以上 |
500超 1,000以下 | 5m以上 |
1,000超 2,000以下 | 9m以上 |
2,000超 3,000以下 | 12m以上 |
3,000超 4,000以下 | 15m以上 |
4,000超 | タンクの水平断面の直径またはタンクの高さのうち数値が大きい方と同じ距離で、その距離が15m未満の場合は15m以上としなければならない。 |
〈計算例〉
灯油(引火点40℃以上)の場合
灯油の指定数量…1,000 L
貯蔵量…10,000 Lの場合
指定数量の倍数… 10,000 L ÷ 1,000 L = 10倍 ≦ 500倍以下
⇒ 空地3m以上必要
緩和:引火点が70℃以上の場合、上表の空地距離の2/3又は3mのいずれかの大きい数値を採用する。
〈緩和時の計算例〉
上記表の空地に必要な距離が5mの場合
5m × 2/3 = 3.33 … > 3m → 3.33mを採用
5. 防油堤
1)防油堤の製作例

防油提平面寸法:外側□3,100㎜ 、内側□2,700㎜
防油提厚さ:200㎜
構造:鉄筋コンクリート造
防油堤内高さ:500㎜
防油提側面階段:幅1,300㎜ 、蹴上高さ230㎜(作業のしやすさのため)
集水貯桝:□300㎜
鉄骨架台柱:□100㎜
堤内傾斜:1/200の傾斜をつけ貯桝へ自然に流れるようにする。
〈防油提容量計算〉
防油堤必要容積:1,800L × 110% = 1,980L(1.98㎥)
防油堤容積:防油堤内 7.29㎡×0.5m - タンク土台 1.808㎡×0.25m
-鉄骨架台柱(防油堤に浸かる部分) 0.01㎡×0.5m×6本
3.645㎥ - 0.452㎥ - 0.03㎥ =3.16㎥ > 必要容積 1.98㎥ … OK
〈防油堤必須基準〉
防油堤の高さ | 堤内50㎝以上 (高さ1m以上の場合、堤内に出入するため平面30mごとに階段を設ける。) | |||||||||||||||
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防油堤の容量 | タンク容量の110%以上。 負傷等で漏れ出た場合に防油堤でタンク内液が全て収まるようにする。 | |||||||||||||||
防油堤の構造 | 鉄筋コンクリート又は土。 危険物の漏れない構造。 | |||||||||||||||
防油堤の面積 | 防油堤1つ平面面積80,000㎡以下。 防油堤1つにつきタンクは10基まで置くことができる。 (タンク容量が200KL以下で、取り扱う危険物の引火点が70℃以上200℃未満である場合には20基。)ただし、引火点が200℃以上の危険物を取扱う屋外貯蔵タンクは制限なし。 | |||||||||||||||
構内道路 | タンクは構内道路に直接面して配置する。 (引火点200℃以上のタンクまたは非引火性液体は除かれる。)
〈配置〉:周囲が構内道路に接するように設ける。 | |||||||||||||||
防油堤とタンクの距離 | (引火点200℃以上のタンクまたは非引火性液体は除く)
〈今回のタンク直径15m未満の事例の場合〉 | |||||||||||||||
配管 | 防油堤内タンクの配管以外の配管は禁止。 〈貫通部〉防油提に貫通は禁止。(保護措置を講ずるときは可能。) | |||||||||||||||
水抜口 | 必要。常時閉鎖できるバルブを設置する。 (開閉弁などは防油堤の外部に設ける) | |||||||||||||||
防油堤内の排水勾配 | 防油堤内の床面には、適切な傾斜と集水桝を設けることが求められる。(漏洩時に危険物を一箇所に集め、油分離装置などへ導水するため) |
2)防油堤内のタンク下土台



底面 |
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下記のいずれかの腐食防止措置をする。 ・タンク底板の下にアスファルトサンド敷き等の防食措置を設ける。(雨水等の浸入を防ぎ、底板の腐食を抑える役割。) ・タンク底板に電気防食措置を設ける。主に流電陽極法(マグネシウムや亜鉛などの陽極を設置し、自然電流を利用して防食する方法)と、外部電源法(直流電源を用いて防食電流を流し、腐食を抑える方法) ・その他の同等以上の防食措置 |
3)架台
また、転落防止の手すりを設け安全に作業がしやすいようにしてあります。

4)防油堤側面の表示看板

5)消火器



6. 20号タンク周りの設備
1)液面計

1)配管
材質 | 炭素鋼鋼管、ステンレス鋼、銅管・銅鋼金管、フッ素樹脂ライニング鋼管、ダクタイル鋳鉄鋼管等の危険物に応じて耐圧・耐蝕性のある材料。 |
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接続方法 | フランジ接続(最も一般的)、溶接接続(高い密閉性が取れる。漏洩リスクが最も低いが、施工や点検に手間がかかる。)、ねじ込み接続(小口径配管に使用される。高圧・高温に不向き。)等で漏洩防止対策をする。 |
支持部分 | 地震等の振動に耐えられるよう適切な支持金具で固定する。Uボルト、吊りボルト、サドル金具等でしっかり固定。熱膨張対策としてスライド支持やエキスパンションループ等を設ける。 |
可とう接手 | タンクとの接続部分には、フレキシブルメタル接手やユニバーサル式ベローズ形伸縮管接手等を取り付け地震などでの損傷を防止する。 |
配管傾斜 | 管内液体が自然に排出できるように(特に排出・水抜き配管)傾斜をつける。通常1/100~1/200だが液体の粘度や配管の長さにより調節する。必要に応じてドレン弁を設け配管内の残液を排出可能にする。 |
防油堤壁面配管 | 防油堤に貫通してはいけない。 ただし適切な措置をすれば問題なし。 |
バルブ | 出入口配管の直近にバルブを設け、緊急時の遮断が可能な状態にする。ドレンバルブ(排出弁)配管の低位部やタンク底部に設け、定期的な排出や清掃が可能な状態にする。鋳鋼、鍛鋼、ステンレスなど危険物に適した材質の物を使用。 |
腐食防止対策 | 配管の外面に防錆塗装や被覆材を覆うなどの措置が推奨される。 |
1)アース

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