はじめに今回防音室新設の流れとしましては、栃木県宇都宮市T様事務所棟が移転したことにより、空きスペースとなった事務所棟を改修し、防音室を設置したいとのことでした。防音室はお客様の趣味として利用するものでした。ご依頼いただきましたお客様に感謝申し上げます。ありがとうございました。
昨今、平成30年に総務省が出したデータによると、日本の苦情件数ランキング上位の中で、騒音32.9% 振動4.1%で合計37%と音に関わる苦情が1/3を超えている状況です。音楽関係だけでなく工場などでも騒音の苦情は多く発生しており、金属加工工場85~110dB、印刷工場85dBなどで立地条件によって防音対策は必要不可欠なものになっております。特に、屋外に設置するパッケージエアコンの大きいもので80dB、ルームエアコンの大きいもので73dB、冷凍機・送風機・コンプレッサーなどに関しては、大きさによって違いますが、100dB程度の機械が数多くあります。いずれにしても、騒音の苦情が発生しないようにするためには、注意が必要であると思います。わたくしも耳にした加工工場の事例では、後から越してきた近隣住宅からの苦情で、少し離れた場所に追加で一棟増築せざるを得なかったとゆう話を聞いたことがあります。
騒音は、音量が大きく耳で聞いてうるさく感じる音で、一方、煩音(はんおん)は心理的に不快な音で、音量はそれほど大きくなくても聞く人の心理状態や人間関係などの要因によって煩わしく感じる音になります。したがって、音により近隣に与える影響は大きくなりますので、主観的なものでなく、客観的に見ていかないと取り返しのつかないものになると感じました。今回、練習部屋として使用する楽器はトロンボーン116dBですが、場合によっては、ドラム130dBで使用した時にも対応できる防音室を作っておいた方が良いのではないだろうか?とお客様からのご相談を受け、それを設計に反映いたしました。
音のパワーの真数計算(10log₁₀P)によると、音を下げるためにはマイナス10dB→1/10倍、-20dB→1/100倍、-30dB→1/1,000倍・・・となり、マイナス80dB下げるためには1/10⁸(1/100,000,000倍)【一億分の一】と天文学的な数字となります。したがって、弊社が2018年に防音室の設計及び施工した時の注意点及び音圧測定結果をなるべく可視化していこうと考えました。設計、施工方法、引渡時の音圧測定で良かったところ、悪かったところを考察し、防音室の最高レベル総合遮音性能Dr値-85dBについて検証しました。以下の図面~データまで、参照のほど宜しくお願い致します。
工事前状況
防音室設置前の状況は、既存の事務所棟は木造平屋建て60㎡(18.2坪)、床は土間コンクリートの上に木で床上げしており15cm上がっていました。天井高さは2.43m。天井裏のふところは90cmありました。建物外部の状況は、東面は1mほどのスペースを挟み隣家、南面は4mの道路を挟み隣家、西面はお客様の駐車場と母屋があり、北面は倉庫(私邸)とゆう状況、したがって、東面・南面・西面は、隣家や駐車場ですので特に騒音の配慮を要すると考えていました。
設計条件
①事務所棟60㎡の約30㎡の内部側 床・天井解体後、内部スケルトンにして、防音室7畳を新設する。(外側~15.7㎡・内側~有効面積11.3㎡)
②2重壁防音壁~壁厚さ30cm
③音源は、ドラム130㏈に合わせた外部総合遮音性能(3重壁)Dr値-80~85㏈とりたい。
④特に東面・南面の隣家と西側の駐車場側の騒音は特に配慮が必要。
⑤給排気口は、隣家側を避け西面の駐車場側にする事。
※Dr値とは 発生する音 - 聞こえてくる音(透過)= 遮音性能(遮音+反射音+吸音)
設計提案
建物外部隣家側でDr値―80~85㏈の総合遮音性能をクリアするためには、外壁及び屋根に関しては既存のままにして、一人分通路幅50cmを確保し、外壁と屋根を含めると3重の構造にしたいと考えました。なるべくコストも最小限にするために防音壁30cmは既存の土間から屋根裏まで2重の壁で区画し、壁の内部にも空気層を取りながら各材料を順番通りに配置し騒音・振動にも配慮した設計にしようと考えました。床と天井に関しては、2重壁に隙間なく密閉したつくりにして、壁同様に2重の天井と2重の床にして空気層をとりながらしっかりとした設計施工計画にしようと考えました。
通路や広間など防音室のすぐ外側で単体遮音性能Dr値―60㏈確保したいと考えました。外壁・屋根につきましては、最低でもDr-30㏈は確保できそうでしたので、外部側の総合遮音性能はDr-85㏈確保できると考えました。また、室内壁に吸音材を2か所配置し室内音響を快適にするよう配慮いたしました。出入口防音ドアは、Dr値-30~35㏈の2枚配置しました。内部窓(ペアガラス)も密閉性の高い縦すべり出し窓採用し、Dr値-30~35㏈の2枚配置し、両方ともDr値-60㏈は確保したいと考えました。
給排気の設計計画については、未知数でした。天井扇・給気グリルでサイレンサー付きのものを採用し風道の中にストレートサイレンサー(Dr値-10dB)をとりあえず3個設置し、工程の途中拡声器(129.5dB)で音圧測定しどの程度音圧が下がるのか検討してみようと考えました。
音圧測定してみたところ、双方とも、給排気口で74dBと高音でしたので、追加で、ストレートサイレンサー1個、フレキサイレンサー(Dr値-14dB)を2個設置いたしました。天井裏での配管方法は直線ではなくあえて蛇行するような配管経路をとることにより音圧レベルを下げるよう設計いたしました。
一方、メーカーからの圧損特性グラフにより、サイレンサーの圧損の合計は90Paで排気風量100㎥/h最低でも確保できそうでしたので防音室内容積29.3㎥に対しては十分と判断させて頂きました。(換気回数3.4回/h)しっかりと換気するので安心です。
音圧測定及び遮音性能計算
音圧測定概略図は以下のようになりました。
A音圧測定
・測定方法:防音室内に拡声器100Wを設置しスピーカー音圧レベルを、129.5㏈(ドラム)・115.9㏈(トロンボーン)・100.5㏈(ピアノ)に設定しそれぞれ測定する。
・測定位置:音源1か所、防音室内壁面3か所、縦すべり出し窓3か所、木製建具3ヶ所防音室外壁面4か所、建物外部5か所、外部給排気口2か所、合計20か所をそれぞれ測定する。
B遮音性能計算
・遮音性能Dr値の計算 各測定位置でのDr値を計算します。
※Dr値とは 発生する音-聞こえてくる音(透過)=遮音性能(遮音+反射音+吸音)
(結果)
音圧測定及び遮音性能計算は以下の通りになりました。
129.5dB(ドラム)結果の検証は以下の通りです。
(防音室2重壁 単体遮音性能)
・防音室2重壁は十分に効果が出ました。→ 単体遮音性能Dr値-70~74dB
・縦すべり出し窓(ペアガラス)30cm間の単体遮音性能Dr値-32dB 窓外側ではDr値-54dBとなりました。
・出入口ドア30cm間の単体遮音性能Dr値-36dB ドア外側ではDr値-57dBとなりました。
(外部近隣側3重壁 総合遮音性能)
・外部近隣側3重壁は十分に効果が出ました。→総合遮音性能Dr値-86~89dB
・給排気口も十分に効果が出ました。→総合遮音性能 給気口Dr値-76dB 排気口Dr値-78dB
【結果検証】
縦すべり出し窓(ペアガラス)と木製建具につきましては、最初考えていた単体遮音性能Dr値―60dB確保できず、3~6dB足りませんでした。出入口などの開口部では特に細心の注意を要すると考えられました。結果的に総合遮音性能Dr値としては、外壁がそれを補ってくれて近隣住居に影響を及ぼすことはありませんでしたが、防音室が直接外壁に接している場合は、三重の構造のものがよいですし、さらに吸音カーテンなどで騒音対策とする必要性があると考えられます。
外部側の給排気口については、小学校の実験で学習した糸電話のようです。特に排気口については風の流れで音が外に出やすいですし、50dB~60dBの音をさらに下げようと思うとなかなか簡単に下がらないのも事実です。給排気口を設置する場所を近隣住居からなるべく離れた場所にする事も検討するべきだと思います。一方で、ダクト100Φから出てくる音のエネルギーは、十分に小さいものです。2~3m離れたところで音圧測定すると、騒音に影響するものではありませんが、「何か気になる音」として注意しておかないと騒音の対象になると考えられます。対処方法としては外部深型フードをさらにウェザーカバーで覆い、向きを変えるなどです。
音圧測定の結果を受け、外部総合遮音性能として129.5dB(ドラム)につきましては、3重の壁、出入口など開口部で3重の構造が必要になり、115.9dB(トロンボーン)については、ぎりぎりですが2重の壁、出入口など開口部で3重の構造が必要になると考えらます。一方、100,5dB(ピアノ)については、2重の壁と出入口など開口部で2重の構造が必要になると考えられました。
引渡時の状況
ドラム(130dB)のスペックで施工させて頂きました防音室は、お客様の使用する楽器トロンボーン(116dB)の演奏音は、外部では全くと言っていいほど聞こえませんでした。また室内環境も良好でしたので、お客様から『㈱TASAKIさんなかなか良い感じだね』
『これからは、ご近所さんに気をつかわず快適に練習ができます。』とお褒めの言葉をいただきました。お客様にはとても喜んでいただき気持ちよく引渡させて頂きました。こちらこそありがとうございました。
まとめ
健康診断でヘッドホンをつけ、行う聴力検査は30dB聴こえれば異常なしとされています。一方で、住宅地域の騒音規制基準値は45dB以下とされています。聴力検査と騒音規制基準値の差は15dBしか違いがありません。わたくし個人的見解としては、日常の会話60dB程度であれば騒音にはならないと考えたいですが、音は、煩音(はんおん)に影響を受けやすいのも事実です。例えば寝ている時での60dBは騒音になるとゆうことだと思います。夜勤明けで寝ている人も近くにいるかもしれません。したがって、騒音とは客観的に見ていかないといけないです。